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#商標の基礎知識

悪意の商標出願とは?目的や事例で解説

公開日:

2025/11/20

更新日:

2026.06.30

「商標登録をしておかないと、後で大変なことになるらしい」

周囲の経営者仲間からそんな話を聞き、自身のビジネスについて不安を感じたことはありませんか?特に、ネットで商標について調べていると「悪意の商標出願」や「商標トロール」といった不穏な言葉を目にし、「自分の会社やサービスもトラブルに遭ってしまうのでは?」と懸念されているかもしれません。

商標制度は本来、ビジネスにおける信用の積み重ねを守るための制度ですが、残念ながらその仕組みを逆手にとり、不正な利益を得ようとするケースが存在します。

この記事では、これから商標登録を検討されている個人事業主や中小企業・スタートアップの経営者向けに「悪意の商標出願」の手口や実際に起きた事例について解説します。

悪意の商標出願とは

「悪意の商標出願」とは、「他人の有名な商標やブランドを、その国の商標法上でまだ登録されていない隙を突いて、本来の権利者ではない第三者が不正な目的で先回りして登録しようとする行為」を指します。

日本では、商標は原則として「早い者勝ち(先願主義)」です。つまり、基本的には一番最初に出願した人に権利が与えられます。しかし、このルールを悪用し、自分が考えたわけでも使用しているわけでもない、他人の有名な名称やロゴを勝手に出願するケースが後を絶ちません。

不正な目的とは?

単に「名前が気に入ったから」という理由だけでなく、多くの場合は以下のような金銭的・実利的な利益を狙っています。

  • 高額な買い取り要求:本来の権利者が商標登録しようとした際に、「私が既に権利を持っている」と主張し、商標権を法外な価格で買い取らせようとする。

  • ライセンス料の請求:その名称を使用し続けるための「使用料(ライセンス料)」を要求する。

  • 代理店契約の強要:「商標権を持っている私を、日本(またはその国)での独占販売代理店にしろ」と迫る。

  • ブランドイメージへのただ乗り:有名ブランドと誤認させて、粗悪品を販売したり集客を行ったりする。

法律上、このような行為は制限されている

もちろん、特許庁もこのような不正行為を野放しにはしていません。日本の商標法には、こうした「悪意」のある出願を拒絶、あるいは無効にするための条項が存在します。

代表的なのが商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)です。これは「公の秩序、善良の風俗を害するおそれがある商標」は登録できないという規定です。単に卑猥だったり差別的な言葉が対象になるだけでなく、公正な競争を害するような「他人の著名な商標の盗用」や「不正目的の出願」も、この条項によって拒絶されることがあります。

また、以下のような条項も関連します。

  • 第4条第1項第10号:他人の周知商標と類似する商標は登録不可。

  • 第4条第1項第15号:他人の商品・役務と混同を生じさせるおそれがある商標は登録不可。

  • 第4条第1項第19号:他人の周知商標と同一・類似で、不正の目的を持って使用する商標は登録不可。

上記のような法律はありますが、審査官がすべての事情(その商標が特定の業界でどれほど有名か、出願人と本来の権利者の関係など)を知り得るわけではないため、すり抜けて登録されてしまうリスクはゼロではありません。

特許における冒認出願との違い・共通点

知的財産の世界には、商標の「悪意の出願」と似た概念として、特許における「冒認出願(ぼうにんしゅつがん)」という言葉があります。両者は「本来の権利者ではない者が勝手に出願する」という点では共通していますが、その背景となる考え方が少し異なります。

特許の「冒認出願」とは

特許における冒認出願とは、「発明者ではない者(発明を盗んだ者など)」や「発明者から特許を受ける権利を承継していない者」が、あたかも自分が権利者であるかのように偽って特許出願を行うことです。 特許法には「真の発明者(または正当な承継人)だけが特許を受ける権利を持つ」という大原則があります。そのため、冒認出願は「権利の泥棒」として扱われ、拒絶理由や特許無効の理由になるだけでなく、真の権利者へ特許権を移転請求することも可能です。

商標における「悪意」の特殊性

一方、商標は著作物など「創作物」ではなく「選択物」と解釈されます。「ABC」という文字列自体は誰でも思いつくものであり、特許のような「高度な発明」とは性質が異なります。 そのため、商標においては「誰がその言葉を考え出したか」よりも、「誰がその言葉に業務上の信用(ブランド力)を持たせたか」が重視されます。

  • 共通点:どちらも「本来利益を受けるべき正当な権利者の利益を害する」「第三者が不正に権利を取得しようとする」点。

  • 相違点:特許は「発明をしていない」という事実(権利の帰属)が決定的な欠格事由になるのに対し、商標は「他人の信用へのただ乗り」や「権利者への嫌がらせ」といった主観的な「悪意(不正の目的)」の立証が重要になります。

商標において「冒認」という言葉があまり使われず、「悪意の出願」や「抜け駆け出願」と呼ばれるのは、特許のような「真の発明者」という概念が商標には馴染みにくいためです。

悪意の商標出願の背景・目的のパターン

悪意を持った出願は、いくつかの典型的なパターンに分類されます。これらを知っておくことで、自社がどのようなリスクに晒されているかを予測できます。

1. 海外企業による先回り出願(商標ハイジャック)

日本企業が海外進出(中国や東南アジアなど)を計画した際、現地ですでに自社のブランド名が登録されてしまっているパターンです。現地の企業や個人が、日本の人気商品や有名企業の動向をリサーチし、進出前に先回りして出願を行います。 これは日本企業にとって、進出の断念やブランド名の変更、あるいは高額なライセンス料支払いを余儀なくされる深刻な問題です。

2. 商標トロール(大量出願)

特定のビジネスを行うつもりがないにもかかわらず、将来流行りそうな言葉や、他人が使いそうな一般的な名称を大量に出願し、権利化を目論むパターンです。 彼らは実際にその商標を使ってビジネスをする気はなく、後からその名称を使いたい企業に対して警告書を送りつけ、和解金やライセンス料をせしめることをビジネスモデルとしています。この場合、出願料を払わないか、商標法上の拒絶理由があるため、最終的に登録されないケースもあります。

3. 流行語・バズワードの便乗出願

SNSで話題になった言葉、流行語大賞にノミネートされた言葉、時事ネタなどを、話題になった直後に素早く出願するパターンです。 その言葉を生み出した本人やコミュニティとは無関係の第三者が、話題性に便乗して独占権を得ようとします。これはネット上で「炎上」案件になりやすい傾向があります。

4. 元関係者による嫌がらせ出願

かつて取引があった代理店や、退職した従業員、仲違いした共同経営者などが、腹いせや将来の交渉材料にするために、会社のブランド名を勝手に出願するケースです。内情を知っているだけに、企業にとって急所となる区分(商品ジャンル)で出願されることが多く、厄介なパターンです。

悪意の商標出願の実例

ここでは、実際に問題となった「悪意の商標出願」や、それに類する騒動の事例を5つ紹介します。登録に至ったもの、未遂に終わったもの、大きな社会的影響を与えたものなど様々です。

中国における「無印良品」敗訴事例

日本企業が海外での商標トラブルに巻き込まれた最も有名な例の一つです。 良品計画(無印良品)が中国展開する前に、中国企業がタオルやベッドカバーなどの一部の商品区分で「無印良品」の商標を先に登録していました。良品計画側は異議を申し立て長年争いましたが、中国の裁判所は最終的に、一部の商品について中国企業側の商標権を認め、本家である良品計画に対して損害賠償の支払いを命じました。 「周知商標(有名な商標)」として認められる前に、現地で先取りされてしまうことの恐ろしさを知らしめた事例です。

中国における「iPad」商標権紛争

Apple社が「iPad」を中国で販売しようとした際、台湾企業の中国子会社がすでに「iPad」の商標権を保有していることが発覚しました。Apple側は商標権の譲渡契約を結んだつもりでしたが、手続き上の不備等を突かれ、中国国内での商標権侵害訴訟に発展。 最終的にApple社は約6,000万ドル(当時のレートで約48億円)という巨額の和解金を支払うことで解決しました。

「のまネコ」商標登録騒動(未遂)

2005年頃、ネット掲示板「2ちゃんねる」のアスキーアートから派生したキャラクターに酷似した「のまネコ」を、大手レコード会社が商標出願し、グッズ販売などを行った事例です。 ネットユーザーから「みんなで作った共有財産を独占しようとしている」と激しい批判(炎上)が起き、不買運動などに発展しました。結果として、レコード会社側は商標出願を取り下げました。 法的な「登録可否」以前に、ネット文化やコミュニティの感情を無視した出願が、企業のブランドイメージを著しく損なうリスクがあることを示した例です。

「ゆっくり茶番劇」商標登録事件

2022年、動画投稿サイトなどで人気のジャンル「ゆっくり茶番劇」という文字商標が、第三者によって商標登録された事件です。 この言葉は長年多くのクリエイターによって自由に使われていたため、特定の個人が独占することに対し、ネット上で猛反発が起きました。特許庁にも多数の通報や相談が寄せられ、最終的には登録者が抹消登録申請を行い、権利は放棄されました。

自社で商標登録しておくことが最大の防御策

「悪意の商標出願」は、対岸の火事ではありません。あなたが必死に育てたブランドやサービス名が、ある日突然、誰かのものになってしまうリスクは常に存在します。

最大の防御策は、「誰よりも早く、自社で商標登録をしておくこと」に尽きます。商標権さえ持っていれば、悪意ある第三者からの攻撃を未然に防ぎ、万が一模倣品が出た際も堂々と権利を行使できます。

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