#商標の基礎知識
公開日:
2026/02/03
更新日:
2026.08.04

知人の経営者や取引先から「商標を取っていなくて警告書が届いた」「泣く泣くブランド名を変えた」という話を聞いたことがあるかもしれません。
ビジネスを守るための保険とも言える商標ですが、調べ始めると「文字商標」や「ロゴ商標(図形商標)」など種類があり、どれを優先すべきか迷われることでしょう。一般的に「まずは文字商標」と言われますが、なぜロゴでも商標登録する必要があるのでしょうか。
本記事では、文字商標とロゴ商標の違いから、中小企業や個人事業主がロゴを商標登録する理由やしなかった場合のリスクについて解説します。

商標登録を検討する際、最初に直面するのが「どの形態で出願するか」という問題です。商標には、文字、図形、記号、立体的形状、さらには音や色彩など、様々なタイプが存在しますが、実務上もっとも頻繁に利用されるのが「文字商標」であり、それに「ロゴ商標(図形商標)」がプラスされることが多くなります。
まず前提として、商標実務において「文字商標」が最優先されることが一般的です。 文字商標、特に「標準文字」として登録された商標は、特定のフォントやデザインに限定されず、「その言葉(ネーミング)」自体に商標の権利が発生します。
例えば、「ABC」という文字を標準文字で登録すれば、ゴシック体で書こうが、明朝体で書こうが、あるいは横書きでも縦書きでも、原則として「ABC」というネーミングの使用を独占できます。ビジネスにおいて社名や商品名は、WEBサイト、パンフレット、契約書など様々な場面で異なる書体で使われるため、利用範囲の広い文字商標がスタンダードと言われるのです。
では、文字商標に次いで出願数が多い「ロゴ商標」とはどのようなものでしょうか?
一般的にロゴ商標と呼ばれるものは、特許庁の分類では「図形商標」や、文字と図形が結合した「結合商標」などが該当します。
特許庁が公表している統計(特許行政年次報告書など)を見ても、商標出願全体の中で、図形を含む商標も常に一定の割合を占めていると考えられます。これは、多くの企業が文字による商標名に加え、ロゴマークによるブランディングも重視している証拠となります。
一口に「ロゴ商標」といっても、実は大きく分けて3つのパターンがあります。
1、純粋な図形のみのロゴ
文字を含まない、シンボルマークだけのもの
(例:Appleのリンゴマーク、NIKEのスウッシュ)。
2、装飾された文字のロゴ(ロゴタイプ)
社名や商品名を独特のデザイン文字で表現したもの。読めるけれど、デザイン性が高いもの
(例:Coca-Colaの筆記体ロゴ)。
3、図形と文字の組み合わせ
シンボルマークと社名がセットになっているもの
(例:スターバックスのマークと文字の円形ロゴ)。
文字商標が「名前(音・意味)」を守るのに対し、ロゴ商標は「外観(見た目の印象)」を強く守る役割を果たします。多くの企業は、まず文字商標でネーミングを押さえ、予算や事業規模の拡大に合わせてロゴ商標を追加し、権利を盤石にするという手法をとっています。
代表的なロゴ商標の例
ロゴ商標の重要性を理解するために、世界的に有名なブランドがどのようにロゴを権利化し、活用しているかを見てみましょう。これらのロゴは単なる「絵」ではなく、企業の信用そのもの表現する強力な知的財産です。
Apple社の「リンゴのマーク」は、文字を含まない純粋な図形商標の代表例です。 このロゴを見ただけで、世界中の誰もが「iPhone」や「Mac」などの高品質なデジタルデバイスを想起します。もしAppleが「Apple」という文字商標しか持っていなかったらどうなるでしょうか。他の誰かが「Apple」という文字を使わずに、非常によく似たリンゴのマークを付けたパソコンを販売した場合、消費者はApple製品だと誤認する可能性があります。図形そのものを商標登録することで、こうした「見た目のパクリ」を排除できます。
コカ・コーラのロゴは、流れるような独特の筆記体で描かれています。これは「文字」であると同時に、高いデザイン性を持った「図形」としての側面も持っています。 コカ・コーラの場合、単なる「COCA-COLA」という標準文字だけでなく、あの独特な書体のロゴも商標登録されています。これにより、もし他社が例えば「Coco-Cora」のように綴りを少し変えたとしても、あの特徴的な赤い筆記体のデザインを模倣していれば、視覚的な類似性を根拠に権利侵害を主張しやすくなります。
スターバックスの「サイレン(人魚)」のロゴも有名です。 初期の茶色いロゴから、現在の緑色のシンプルなロゴへと変遷していますが、その都度、新しいロゴを商標登録しています。また、現在のロゴには「STARBUCKS COFFEE」という文字が入っていないバージョンもあるのがポイントです。文字がなくても「あの緑の女性のマーク=スタバ」と認識されるレベルまでブランドが育っており、図形商標としての価値が発揮されている例となっています。
「スウッシュ」と呼ばれる躍動感のあるチェックマークのような図形。これも説明不要の強力な商標です。 スポーツウェアにこのマークがついているだけで、機能性やファッション性が保証されているように感じさせます。文字(NIKE)が併記されていなくても、この図形だけでどこのブランドか識別できるため、図形単体での商標登録が重要な意味を持ちます。
冒頭で「文字商標があれば名前は守れる」と述べましたが、なぜ多くの企業がコストをかけてロゴ商標を登録するのでしょうか。そこには、文字商標だけではカバーしきれない、ビジネス上の明確なメリットと必要性があります。
人間は情報の多くを視覚から得ています。文字(テキスト)を読むよりも、図形や色使い(ロゴ)の方が瞬時に脳に記憶され、直感的なイメージとして定着しやすい性質があります。 例えば、看板やアプリアイコンなど、パッと見た瞬間の識別性が重要な場面では、文字よりもロゴの印象が勝るでしょう。ロゴを商標登録することで、その「一目でわかる自社の目印」を独占的に使用でき、他社による類似デザインの使用を法的に禁止することができます。
ここが非常に重要なポイントです。 文字商標(標準文字)は、あくまで「その言葉」の権利です。しかし、ロゴデザインにこだわっている場合、その「独特のフォントデザイン」や「文字の配置」「装飾」そのものに価値があります。
例えば、あなたの会社が非常に特徴的なオリジナルフォントで社名ロゴを作っていたとします。もし他社が、まったく違う社名であっても、あなたのロゴと「瓜二つのフォント・デザイン・配色」でロゴを作ってきたらどうでしょうか。 社名(文字)が違うため、文字商標での権利行使は難しい場合があります。しかし、ロゴ(図形)として商標登録していれば、「外観が類似している」として差し止めを請求できる可能性が高まります。ロゴの「雰囲気」をパクられるのを防ぐには、ロゴ商標が不可欠なのです。
社名とは別に、シンボルマークやマスコットキャラクターを使用している場合、これらは「文字」ではないため文字商標では保護できません。 「キツツキのマーク」をカフェの看板に使っている場合、「カフェ〇〇」という文字商標を持っていても、他店が似たような「キツツキのマーク」を使うことを止めるのは困難です。シンボルマークそのものを図形商標として登録する必要があります。
アパレルや食品などの物販において、商品タグやパッケージに大きく印刷されるのはロゴであることが多いです。 ECサイト(Amazonや楽天などのモール)では、商品画像にロゴが入っているかどうかが、正規品かどうかの判断基準になることもあります。ロゴ商標を登録しておけば、模倣品が出回った際に、ECプラットフォームに対して「商標権侵害」として出品削除を依頼する際の手続きがスムーズになるケースがあります。
「予算が限られているから、とりあえず文字商標だけでいいか」と判断することもあるでしょう。もちろん、何もしないよりは文字商標だけでも取るべきです。しかし、ロゴ商標を後回しにしたり、登録しなかったりすることで発生するリスクについても確認しておきましょう。
最も大きなリスクは、競合他社に「イメージの模倣」を許してしまうことです。 文字商標しか持っていない場合、競合他社が以下のような行動をとったときに対抗できない恐れがあります。
例:名前は違うが、ロゴのデザイン(色・形・フォント)が激似の商品を出す。
消費者は店頭やWEBで商品をパッと見たとき、名前を熟読する前に「あ、いつものあのブランドの雰囲気だ」と判断して購入することがよくあります。激似の商品であれば間違って買ってしまう人もいるでしょう。これは、あなたの会社が築き上げた「ロゴへの好意的イメージ」「信頼感」に、他社が似たようなデザインで便乗し、売上をかすめ取る行為です。ロゴ商標がないと、こうした「雰囲気パクリ」に対して法的な決定打を欠くことになります。
「ロゴは自分でデザインした(またはデザイナーに描いてもらった)絵なのだから、著作権で守られるのでは?」と考える方もいます。 確かにロゴには著作権が発生する場合がありますが、知財実務の世界では「ロゴの保護においては著作権だけでは十分でない」とされています。
理由は大きく2つあります。
創作性のハードル: シンプルなロゴや文字をデザインしただけのロゴタイプは、「高度な創作性がない」として著作物として認められない(著作権が発生しない)ケースが多々あります。
類似の範囲が狭い: 仮に著作物と認められても、著作権侵害を主張するには「依拠性(相手があなたの作品を見て真似したこと)」の立証が必要です。偶然似てしまった場合は侵害になりません。
一方、商標権は「創作性」は問われませんし、「真似したかどうか」も関係なく、「似ているかどうか(類似)」だけで権利侵害を問えます。ビジネスの現場でロゴを守るには、著作権よりも商標権が圧倒的に強力です。
実はこれが最も恐ろしい、取り返しのつかないリスクです。 あなたが文字商標しか登録していない間に、他社が「あなたの使っているロゴとそっくりの図形」を商標登録してしまう可能性があります。
日本の商標制度は「先願主義(早い者勝ち)」です。もし他社にそのロゴ(図形)を押さえられてしまうと、なんとあなたが長年使ってきたロゴであるにもかかわらず、使用を差し止められたり、損害賠償を請求されたりするという本末転倒な事態になりかねません。 「先に使っていた」という事実(先使用権)を証明して対抗する手段もありますが、その要件は厳しく、認知度が低い中小企業のブランドでは認められないこともあります。
ここまで解説してきた通り、商標登録における「文字」と「ロゴ」は、それぞれ守備範囲が異なります。
文字商標: 「名前」を守る。読み方や呼び名を独占し、媒体を問わず広く権利主張できる。
ロゴ商標: 「外観・イメージ」を守る。デザインの模倣や、視覚的な誤認混同を防ぐ。
予算が許すのであれば、「文字商標」と「ロゴ商標」の両方を出願・登録するのが有効です。 しかし、創業初期で予算が限られている場合は、まずは汎用性の高い「文字商標」を確実に押さえ、事業が軌道に乗り、ロゴが消費者に認知され始めた段階で速やかに「ロゴ商標」を追加出願するというステップを踏むのも現実的でしょう。
ただし、ロゴが非常に特徴的で、ビジネスの核となっている場合(アパレルブランドのシンボルマークや、文字が読めない外国人向けのビジネスなど)は、最初からロゴ商標を優先、あるいは同時出願すべきケースもあります。
自社のビジネスにおいて、顧客が何を見て商品・サービスを選んでいるのか。「名前」なのか「マーク」なのか。その視点から、どちらの商標がより重要かを検討してみてください。
なお、ロゴ商標については下記の記事も参照にしてみてください。
株式会社SEIUN Partners 代表取締役 髙取 丈夫様は、GVA 商標登録を利用して、自分で書類を作成して出願をされています。詳しくは以下からご覧ください。
ブランドを長く育てていくために、ロゴと文字の両方を守る必要があると考え、セットで購入しました


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