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人物名での商標登録の可否について...

#商標の基礎知識

人物名での商標登録の可否について解説、商標改正がもたらす影響

公開日:

2025/11/14

更新日:

2026.06.30

自身の名前や著名人の名前を商標として登録することは、ビジネスにおけるブランドイメージ確立や権利保護の観点から非常に重要です。しかし、人物名での商標登録は、その性質上、一般的な商標とは異なる特殊なルールやハードルが存在します。

本記事では、人物名での商標登録の可否について、基本的な考え方から具体的な拒絶理由、そして「最近の改正」がもたらす影響までを詳しく解説します。

1. 人物名商標登録の基本的な考え方

商標とは、商品やサービスを他社のものと区別するための「目印」です。商標登録が認められるには、その目印が「識別力」持っていることが大前提となります。

氏名それ自体は、原則として識別力が弱いとされています。なぜなら、多くの人が同じ氏名を持っている可能性があり、特定の商品やサービスの出所を示す目印として機能しにくいからです。

しかし、以下のようなケースでは、人物名でも識別力が認められ、商標登録の可能性が出てきます。

① 独創的な芸名、雅号、ペンネームなど

一般的に広く知られていない、あるいは独創性の高い名称は識別力を持ちやすいです。

② 特定のデザインやロゴと結合したもの

氏名に特徴的な書体、ロゴマーク、図形などを組み合わせることで、全体として識別力を獲得します。

③ 長年の使用により識別力を獲得したもの(使用による識別力)

その氏名が特定の商品やサービスと結びつき、需要者の間で「この名前を見れば、あの会社(人物)の商品・サービスだ」と認識されるほど有名になった場合、識別力があると判断されます。(商標法第3条第2項)

2. 人物名商標登録を阻害する主な要件

人物名での商標登録は、前述の「識別力」の他にも、いくつかの重要な拒絶理由に直面することがあります。

(1) 識別力がない場合(商標法第3条第1項)

①単なる普通名称・慣用名称

一般的に用いられている氏名(例:「田中太郎」など、ありふれた名前)は、原則として識別力がありません。

②著名性のない他人の氏名

他人の氏名を勝手に商標登録することはできません。ただし、この条文が適用されるのは、単に「識別力がない」という理由付けの一部です。

(2) 他人の氏名・名称等を含む商標(商標法第4条第1項第8号)

これが人物名商標の登録を最も困難にする条文です。

「他人の肖像若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要 者の間に広く認識されている氏名に限る。) 若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若し くは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標 (その他人の承諾を得ているものを除 く。) 又は他人の氏名を含む商標であつて、政令で定める要件に該当しないもの」

この条文は、他人の氏名、肖像、著名な芸名などを含む商標について、その人物(またはその承諾を得た者)の許諾がなければ登録できないと定めています。

①「著名な」の意味

雅号、芸名、筆名に対しては「著名な」という要件が付されていますが、氏名や肖像にはこの要件がありません。 これは、一般人であっても他人の氏名や肖像を無断で商標登録することは認められない、ということを意味します。

②故人の氏名

故人の氏名についても、その使用が遺族の感情を害したり、公序良俗に反したりする場合(商標法第4条第1項第7号)や、故人に関連する商品・サービスと誤認混同を生じさせるおそれがある場合(商標法第4条第1項第15号)には登録が認められません。一般的には、著名な故人の氏名については遺族等の承諾が必要とされます。

(3) 公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)

稀なケースですが、特定の人物名が社会的な倫理や秩序に反する方法で使用されたり、故人の尊厳を著しく損ねるような使用であったりする場合には、登録が拒絶される可能性があります。

(4) 混同のおそれ(商標法第4条第1項第10号・11号・15号)

これらは、他人の商標や氏名・名称等と紛らわしいものを登録できないとする規定です。具体的には、第10号は「周知・著名な未登録商標と紛らわしいもの」を、第11号は「他人の登録商標と類似し、かつ同一・類似の商品等に使用されるもの」を、第15号は「他人の業務に係る商品等と混同を生ずるおそれがあるもの」をそれぞれ保護するものです。

既に登録されている他人の商標と似ていたり、その人物と誤認混同を生じさせたりするおそれがある場合も登録はできません。特に著名な人物名の場合、関連商品・サービスだけでなく、場合によっては他の分野でも混同のおそれが生じやすいと判断されることがあります。

3. 「最近の改正」と人物名商標への影響

日本の商標法は、近年、多様な表現を保護する方向へと進化しています。「最近の改正」として特に注目すべきは、2014年の商標法改正(2015年4月1日施行)と、その後の運用を明確化する2023年改正(2024年4月1日施行)施行の審査基準等の一部改正です。

(1) 2014年改正(2015年4月1日施行)非伝統的商標の導入

この改正により、これまでの「文字」「図形」「記号」「立体」といった伝統的な商標に加え、以下の「非伝統的商標」の登録が可能になりました。

  • 音の商標――企業や商品のサウンドロゴ、CMソングのフレーズなど。(例:久光製薬「ヒ・サ・ミ・ツ」のサウンドロゴ)

  • 動きの商標――キャラクターの動き、ロゴのアニメーションなど。

  • ホログラム商標――見る角度によって変化するロゴなど。

  • 色彩のみからなる商標――特定の色や色の組み合わせ自体が識別力を持つもの。(例:セブン-イレブンの店舗看板の色)

  • 位置の商標――商品に付される特定の位置に限定された標章。(例:リーバイスのジーンズのバックポケットのステッチ)

今回の改正は、人物名そのものの登録要件を直接変更するものではありませんが、人物名を活用したブランディング戦略に新たな可能性をもたらすものとなっています。概評すると以下のようになります。

・複合的な商標戦略の展開

著名人やキャラクターの「決めゼリフ」(音の商標)、特徴的なジェスチャー(動きの商標)、イメージカラー(色彩のみからなる商標)などを人物名と組み合わせて商標登録することで、ブランドの保護範囲をより多角的に広げることが可能になりました。

・「使用による識別力」の証明手段の拡大

音や動きといった要素も、人物の識別力を高める重要な構成要素となり得ます。これらを含む複合的な商標の使用実績が、人物名自体の「使用による識別力」を補強する証拠として評価される可能性もあります。

(2) 2023年改正(2024年4月1日施行)氏名を含む商標の一部緩和

「不正競争防止法等の一部を改正する法律」により、他人の氏名を含む商標の登録要件が緩和されました。一定の条件を満たせば、承諾なしでも登録可能となります。

以下は、特許庁の公式ページに基づく要点です。

背景と改正の概要

従来は、商標に他人の氏名が含まれる場合、同姓同名の全員の承諾が必要で、登録が困難でした。2023年4月1日の法改正により、一定の知名度や関連性が認められる場合には、承諾なしでも登録可能となりました。

改正後の登録要件(商標法第4条第1項第8号)としては、以下のいずれかを満たす必要があります。

1,氏名に一定の知名度があること

2,商標に含まれる氏名が、商品・役務の分野で広く認知されている。

3,出願人と氏名との間に相当の関連性があること

(例:出願人自身の氏名、創業者・代表者の氏名、店舗名として継続使用している場合など。)

4,不正目的での出願でないこと

5,先取りや嫌がらせ目的ではないこと。

なお、注意点としては、氏名の知名度や関連性は、審査官が個別に判断します。

(外国人の氏名も対象となります)承諾書の提出は不要な場合もありますが、疑義がある場合は追加資料の提出を求められることがあります。この改正により、より柔軟な商標登録が可能となりました。

詳細は特許庁の公式ページをご覧ください。一般的な質問項目についてもこちらで確認できます。

参照:特許庁「他人の氏名を含む商標の登録要件が緩和されます」

4,人物名を活用した商標出願のポイント

人物名を商標として活用する際には、以下の観点から戦略的に準備・出願を進めることが重要です。

①識別力の確保

・単なる氏名ではなく、独自性のある芸名や屋号を用いることで、識別力を高める。

・ロゴデザインや特定の書体・色彩と組み合わせた図形商標として出願することで、視覚的な印象を強化。

・商品・サービスとの結びつきを明確にし、特定の出所を示す名称として認識されるよう、計画的に使用実績を積み重ねる。

② 承諾の取得

・他人の氏名(著名か否かを問わず)を含む場合は、必ず本人の承諾書を取得する。

・故人の氏名を使用する際には、遺族等への配慮と承諾の確認を検討する。

③早期出願の検討

・事業開始前や知名度が高まる前に出願することで、他者による先願を防ぐことが可能。

・ブランド構築の初期段階から、商標戦略を視野に入れることが重要。

④戦略的な出願設計

・将来的な展開を見据え、関連する商品・サービス分野を広めに指定する。

・文字商標に加え、図形商標や音・動きといった非伝統的商標との組み合わせも検討し、ブランドの多面的な保護を図る。

まとめ

人物名による商標登録は、ブランド資産としての価値を高める有力な手段となり得ますが、その実現には「識別力の確保」と「他人の権利を侵害しないこと」が重要なポイントとなります。特に、他人の氏名や著名人の名前を使用する場合には、商標法第4条第1項第8号が大きな障壁となるため、慎重な検討が求められます。

近年の制度改正により、人物名そのものの登録要件が直接変更されたわけではありませんが、音声・動作・色彩などの非伝統的商標の導入と運用指針の明確化が進み、人物名を核とした多角的なブランディング戦略を支援する環境が整いつつあります。

人物名での商標登録をご検討の際は、ご自身のケースがどの要件に該当するかを見極めたうえで、登録可能性を高めるための方策について、商標の専門家である弁理士にご相談されることを強くお勧めいたします。的確なアドバイスと戦略により、権利取得への道が大きく拓けることでしょう。

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