#商標の基礎知識
公開日:
2025/09/09
更新日:
2026.06.30

事業者が自らの商品やサービスを他社のものと区別し、ブランドとしての価値を高める上で不可欠な「商標」。この商標が持つべき重要な特性の一つが「識別力」です。
識別力とは何か、なぜ重要なのか、そしてどのようなものが識別力を持つのか、持たないのか。本記事では、商標の識別力について、その定義から具体例、そして特許庁の審査基準までを分かりやすく解説します。

商標の識別力とは、特定の商標が、その商標が使用される商品やサービスにおいて、他の事業者(他人)の商品やサービスと区別できる能力を指します。簡単に言えば、「どこの誰が提供しているものか」を消費者が認識できる力のことです。
例えば、「SONY」という商標を見た消費者は、「ソニー株式会社が製造・販売する電子機器」だと認識します。これは「SONY」という商標に識別力があるためです。もし識別力がなければ、消費者はどの会社の商品かサービスか判断できず、再びその商品やサービスを利用したいと考える場合、辿り着くことができません。
商標法において、識別力は商標登録を受けるための最も基本的な要件とされており、識別力のない商標は原則として登録が認められません。
識別力が必要な理由は、主に以下の3点に集約されます。
識別力は商品やサービスを選ぶ場合の目印の役割を果たします。この点、識別力がない=特徴がない商標は目印の役割を果たしません。消費者が迷うことなく、どの事業者の商品であるかを判別するために識別力は必要となります。
商標は事業者が長年の努力で築き上げてきた信用や名声を保護しますが、基本的には識別力がある商標にそれらの信用や名声が蓄積するものであると考えられています。つまり、ネーミングを決める段階から識別力がある商標を選択し、それを商標登録することで、他社が安易に類似の名称を使用することを防ぎ、模倣品によるブランド価値の棄損などを防ぐことができます。
商標法は、商標を保護することで事業者の業務上の信用を維持し、産業の発達に寄与し、ひいては需要者の利益を保護することを目的としています。識別力は、この目的を達成するための基盤となります。
商標の識別力には強弱の程度があり、一般的に以下の4つの類型に分類されます。識別力が強いほど、商標としての保護範囲が広くなります。
既存の言語にはない、全く新しい言葉を造り出した商標です。商品やサービスとの関連性がなく、最も識別力が高いとされます。
一般的には辞書に掲載がない言葉を造語、辞書に掲載がある言葉を既成語といいますが、文字を組み合わせることで世にない言葉を造語商標といいます。
例:「SONY」「XEROX」「Kodak」「Google」
既存の言葉だが、その商標が使用される商品やサービスの普通名称ではなく、その他効果効能表示、または原材料表示にも該当しない言葉を用いた商標です。造語商標に次いで識別力が高いとされます。
例:「Apple」(リンゴ)をコンピューターに、「Camel」(ラクダ)をタバコに
商品やサービスの特徴や性質を間接的に暗示する商標です。直接的ではないため、特に商品やサービスの業界で使用例がなければ、識別力を認められるケースが多くあります。
例:「Microsoft」(マイクロソフト:小さなソフトウェアを暗示)、「Coppertone」(コパートーン:日焼け止めを暗示)、「QuickDry」(クイックドライ:速乾性を暗示)
商品やサービスの性質、品質、効能、用途、原材料、生産地、販売方法などを直接的かつ具体的に記述する商標です。原則として識別力がないとされ、単独では商標登録が認められません。
例:「甘い」(菓子に)、「速達」(運送サービスに)、「北海道」(食品に)
ただし、後述の「使用による識別力」を獲得した場合は登録が認められることがあります。
具体的な商標例を通じて、識別力のある商標のイメージを掴みましょう。
造語商標の例
「SONY」:電機製品。何の関連性もない造語。
「Google」:インターネット検索サービス。巨大な数字「googol」をもじった造語。
「ピカリン」:架空の掃除用品。掃除との直接的な関連性がない造語。
任意商標の例
「Apple」:コンピューター・スマートフォン。果物のリンゴと電子機器には直接的な関係がない。
「太陽」:時計。太陽と時計は直接的な関係がない。
「象印」:魔法瓶・調理器具。動物の象と製品に直接的な関係はない。
暗示商標の例
「ふわふわ」:パン。パンの食感を暗示する。
「アタック」:洗剤。汚れに「アタック」するイメージを暗示する。
「Quick Charge」:スマートフォンの急速充電技術。充電の速さを暗示する。
これらは、消費者が特定の事業者と結びつけて認識しやすい、強力なブランド資産となり得る商標です。
原則として識別力がないとされ、商標登録が認められない例を解説します。
以下のような商標は、特定の事業者だけが独占的に使用することを認めるのが適切ではないため、識別力がないと判断されます。
第1号:普通名称
「カメラ」-カメラ本体に
「鉛筆」-鉛筆に
「ビール」-ビールに (その商品・サービスにとって一般的・一般的な名称)
第2号:慣用商標
「旅館」-旅館業に
「正宗」-清酒に(特定の業界で広く使われている名称)
第3号:記述的商標
「甘い」-菓子に
「速達」-運送サービスに
「高級」-あらゆる商品に
「北海道」-北海道産の食品に(商品・サービスの性質、品質、原材料、産地、効能などを直接的に表示)
第4号:ありふれた氏名・名称等
「田中」-個人名として
「株式会社」-一般的な会社形態として(ありふれた氏名・名称や、事業表示として一般的なもの)
第5号:簡単で、かつ、ありふれた標章
「マル 〇」や「バツ ✕」の図形
「No.1」や「ベスト」などのありふれたフレーズ(誰でも使えるような、簡単でよくある標章)
第6号:その他識別力がないと認められるもの
その他、社会通念上、特定の出所を表示するとは認められないもの
「ポイントアップキャンペーン」や「輝く未来のために」などのキャッチフレーズや特徴が認められない模様
上記の原則として識別力がないとされる商標でも、長期間に渡り広範囲に使用され、その結果、需要者(消費者)が特定の事業者の商品やサービスを指すものとして認識するに至った場合、例外的に識別力を獲得したとみなされ、登録が認められることがあります。これを「使用による識別力」または「セカンダリー・ミーニング(二次的意味)」と呼びます。
例「セブン-イレブン」
元々は「朝7時から夜11時まで営業する店」という、営業時間を記述した descriptive な名称でした。しかし、長年の大規模な店舗展開と広告宣伝により、「セブン-イレブン」と言えば「株式会社セブン-イレブン・ジャパンが運営するコンビニエンスストアチェーン」として誰もが認識するようになりました。使用による識別力を証明するためには、以下の証拠などを提出する必要があります。
商標の使用期間、使用地域、売上高
広告宣伝の期間、頻度、規模、宣伝広告費
業界内での知名度、消費者アンケート結果
特許庁の審査官は、出願された商標が識別力(「自他商品役務識別力」と言います)を発揮するかを厳格に審査します。その際の主な基準は、商標法に定められています。
商標法第3条第1項:識別力がない商標の不登録
前述の「5-1. 原則として識別力がないもの」に該当する商標は、登録を受けることができません。例えば、商品「菓子」に対して「甘い」という商標を出願しても、第3号(記述的商標)に該当するため拒絶されます。
商標法第3条第2項:使用による識別力がある商標の登録
前述の「5-2. 例外:使用による識別力」を獲得した商標は、第3条第1項の規定にかかわらず、登録が認められます。
審査官は、出願された商標と指定商品・役務(サービス)との関係性を詳細に分析し、その商標が需要者にどのように認識されるかを客観的に判断します。単に文字や図形を見るだけでなく、その商標が使用される業界の慣習や一般的知識も考慮に入れます。
この造語商標や任意商標は識別力を発揮すると認められるケースが多く、他社の商品名サービス名とかぶりにくいという利点があります。新しいブランド名を考案する際は、まずは造語や商品サービスとは直接的に関係してこない言葉を検討しましょう。
ある程度識別力を認められる場合が多いです。ただ、記述的商標との境界が曖昧になりがちであることに加え、業界内で広く一般に使用されるようになった場合、当初は識別力を認められていても、後発的に識別力を発揮しないというケースがあります。あまりにも直接的な暗示は避け、やはり独自性のある言葉を意識することが重要です。
「使用による識別力」の獲得は、時間と莫大なコスト、そして運を要します。また、全国的な周知著名性が必要ですから、相当ハードルが高いものです。自身の独自ブランド名を広めたいと考えるならば、最初から記述的な商標を選ぶことは避けるべきといえるでしょう。
文字商標としては識別力が認められにくい場合でも、図案化することでロゴ商標として登録が可能になるケースがあります。例えば、マクドナルドの「M」が挙げられます。アルファベット1文字という極めてシンプルな構成ながら、独特なアーチ状のデザインによって視覚的なインパクトと識別力を獲得し、商標登録が認められています。
商標の識別力判断は専門的な知識を要します。弁理士に相談することで、より登録可能性の高い商標の考案や適切な出願手続きのサポートを受けられます。
商標の識別力は、ブランドを確立し、消費者の信頼を得る上で不可欠な要素です。識別力のある商標は、事業者の貴重な資産となり、強力な競争優位性を生み出します。
商標を検討する際は、単に「覚えやすい」「響きが良い」だけでなく、「他の事業者と明確に区別できるか」という識別力の観点から慎重に選定することが極めて重要です。この理解が、貴社のブランド戦略の成功に向けた第一歩となるでしょう。

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