#商標の基礎知識
公開日:
2025/11/12
更新日:
2026.06.30

スタートアップ同士の協業や地域ブランドの振興など、複数の業界の法人や個人がともに新しいサービスや商品を生み出すことが多くあります。
その際、共同で生み出したサービスや商品の「顔」となるネーミングやロゴなどの商標をどのように扱うかは、非常に重要な課題です。
一つの解決策として「商標の共同出願」という制度があります。これは、複数の会社や個人が共同で一つの商標を出願・登録する手続きです。
響きはシンプルですが、この「共同」という形は、権利の側面に大きな影響を及ぼします。うまく活用すれば強力な武器になりますが、将来的に「こんなはずではなかった」という深刻なトラブルにもなりかねません。
本記事では、この商標の共同出願の制度内容と、そのメリット・デメリットについて詳しく解説します。

まずは、制度の根本を理解しましょう。
通常、商標登録は、商標を持ちたいと考える「1人」または「1法人」が単独で出願人となり、特許庁に必要な書類を提出します。審査を無事に通過し、登録料を納付すれば、その出願人だけが商標権者となり、そのブランド名やロゴを独占的に使用する権利を得ます。
これに対して「共同出願」とは、その名の通り、1つの商標権を、2人以上の個人や法人が「共同で」手に入れるために行う出願手続きのことです。
具体的な手続きとしては、特許庁に提出する願書(出願書類)の「出願人」の欄に、単独の名前ではなく、権利を共有したいパートナー全員の氏名(名称)と住所(居所)を連記します。
商標の共同出願が認められ、登録されると、その商標権は出願した全員の「共有」となります。商標権は知的財産権の一つです。財産である以上、分割して持つことができ、その持分の割合も、出願時に自由に設定することが可能です(A社60%、B社40%など)。特に定めなければ、持分は均等と推定されます。
最も分かりやすいメリットは、費用の分担です。
商標の出願には、特許庁に支払う印紙代(出願料)がかかります。登録が認められれば、登録料(10年分または5年分)が必要です。さらに、これらの手続きを弁理士に依頼すれば、その手数料も発生します。
これらの費用を複数の者で分担できるため、1法人あたりの初期コストを大幅に抑えることができます。特に、資金力に限りがあるスタートアップ同士の協業などでは、大きな魅力となるでしょう。
コスト以上に重要なのが、このブランドの信用力を高めるというビジネス戦略的なメリットです。
例えば、
事例1:コラボレーション商品 アパレルブランドと飲料メーカーが共同で新しい商品を開発した際、その商品限定のロゴを共同で出願するケースです。
事例2:地域ブランド ある地域の複数の生産者組合が、その地域の共通ブランド(例:「〇〇(地名)ビーフ」)の品質を維持・管理するために、共同で商標権を持つケースです。
このように、共同出願された商標は、単なる「名前」という枠を超え、「私たちは公式なパートナーである」という対外的な信頼の証となります。関係者全員がそのブランドの価値向上にコミットしているという意思表示にもなり、ブランドの信用力を高める効果が期待できます。
法的な視点になりますが、関係者間の無用な争いを防ぐ効果もあります。
例えば、A社とB社が共同で事業を行う際、もしA社が単独で商標を出願・登録してしまうと、B社はその商標をA社の許可なく使えなくなるリスクがあります。逆に、どちらも出願しないままでいると、事業と無関係の第三者にその商標を取得されてしまうかもしれません。
共同出願は、関係者全員が権利者となるため、「一方の当事者が権利を独占する」事態や、「関係者間の牽制によって誰も出願できない」事態を防ぎ、権利関係を安定させる機能を持ちます。
最大のデメリットは、権利の柔軟性が失われることです。
ここで多くの方が誤解しがちなのですが、「商標の使用」そのものは、各共有者が自由に行うことができます。A社もB社も、その登録商標を自社の製品に付けて販売することは可能です(商標法第35条にて準用される特許法第73条2項)。
問題は、「権利の処分」です。以下の行為は、共有者全員の同意がなければ行えません。
ライセンス(使用許諾)(商標法第35条にて準用される特許法第73条3項) 「このブランド、人気が出てきたから第三者にライセンスして収益を上げたい」とA社が考えても、B社が「ブランドイメージが希薄化するから嫌だ」と反対すれば、ライセンスは一切できません。これはビジネス拡大の大きな足かせとなります。
持分の譲渡(商標法第35条にて準用される特許法第73条1項) A社が「この事業から撤退したいので、当社の持分(権利)をC社に売りたい」と考えたとします。これも、B社の同意がなければ実行できません。
権利の放棄、登録の取り下げ 「もうこの商標は使わないから、権利を放棄して維持費用(更新料)を節約したい」という場合も、全員の同意が必要です。
権利の処分だけでなく、特許庁に対する多くの手続きも、原則として共有者全員で行わなければなりません(例:更新登録申請、審判請求など)。
もし共有者の一者と連絡が取れなくなったり、倒産してしまったり、あるいは関係が悪化して協力が得られなくなったりすると、上記の手続きができません。
最悪のケースは、10年ごとの更新手続きです。1社でも協力が得られない(必要な書類に押印しないなど)場合、更新ができず、権利そのものが消滅してしまいます。
また、関係が悪化した際、「もうお互い使わないようにしよう」と合意できれば良いですが、一方が「自分は使い続けるし、他者へのライセンスも認めない」と強硬な態度に出た場合、その商標は誰もが有効活用できない状態になってしまいます。
では、こういったデメリットを避けるためにはどうすれば良いのでしょうか。 共同出願という選択肢を採る以上、これらのデメリットをゼロにすることはできません。しかし、リスクを最小限に抑える方法はあります。
それが、「共同出願契約書」(または「商標権共有契約書」)の締結です。
特許法や商標法が定めるデフォルトのルール(=全員の同意が必要)は、当事者間のビジネスの実態にそぐわないことが多々あります。
だからこそ、共同での出願手続きを進める前に、関係者間で以下の点を話し合い、書面(契約書)として残しておくことがおすすめです。
費用の負担割合 出願時、登録時、更新時、弁理士費用などを明確に定めます。
持分の割合 均等にするのか、貢献度に応じて差をつけるのかを決める。
使用に関するルール 各社が自由に使えるのか、それとも使用する商品・サービスに制限を設けるのか。特に、ブランドの信用を毀損しないための品質管理のルールは重要な点です。
ライセンスの方針 どのような条件で第三者へのライセンスを許諾するのか、その際のロイヤリティの分配はどうするのか。
侵害への対応 第三者による模倣品を発見した場合、誰が主導して警告や訴訟を行うのか、その費用負担はどうするのか。
「出口戦略」もし共同事業が解消となった場合、この商標権をどうするのか。 (例:一方が他方の持分を買い取る、特定の条件で両者が使用を継続できる、全員で権利を放棄する、など)
商標の共同出願は、共同事業の結束を強め、ブランド価値を高めるという強力なメリットがあるツールです。しかし、それは「権利を共有する」という、法的に非常に強固な結びつきを生むものでもあります。
共同出願を選択する場合は、事業の成功だけでなく、万が一共同事業が解消された時のケースまで想定し、事前に詳細な契約を交わしておくことが、お互いのデメリットをなくす最大の防御策となるでしょう。

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