#商標の基礎知識
公開日:
2025/09/25
更新日:
2026.06.30

商標登録は、自社のブランドを守り、事業を円滑に進める上で非常に重要です。しかし、時に先行する登録商標が障害となり、思うようにブランド展開ができないケースも存在します。そんな時に知っておきたいのが、「コンセント制度」です。
聞き慣れない言葉かもしれませんが、これはビジネスの実態に合わせて商標登録の可能性を広げる、非常に柔軟な制度です。本記事では、商標のコンセント制度について、その仕組みから具体的な活用例、注意点まで、わかりやすく解説します。

まず、コンセント制度を理解するために、商標登録の基本的なルールを確認しましょう。
商標は、企業や個人の商品・サービスを他社のものと区別するための「目印」です。商標登録をすることで、その商標を独占的に使用できる権利(商標権)を得ることができ、模倣を防ぎ、ブランドの信用を守ることができます。
しかし、商標登録にはいくつかのハードルがあります。その一つが「先行登録商標との抵触」です。
商標法では、原則として、他人の登録商標と「同一または類似」の商標について、「同一または類似」の商品・役務を指定している場合、その商標は登録が認められません(商標法第4条第1項第11号)。これは、消費者が混乱したり、誤解したりするのを防ぐための重要なルールです。
例えば、「Sweet」という商標を「洋菓子」で登録している会社がすでに存在する場合、別の会社が「Sweet」を「パン」で登録しようとしても、一般的には拒絶される可能性が高いでしょう。
なぜなら、「洋菓子」と「パン」は消費者が同一の事業者が出していると誤解しやすい「類似の商品」だと判断されるからです。
このような場合、通常であれば「Sweet」を「パン」で使うことを諦めるか、別の商標を考えるしかありません。しかし、ここで「コンセント制度」が選択肢として浮上します。
コンセント制度とは、一言で言えば「先行登録商標権者からの同意(承諾)があれば、本来なら拒絶されるはずの類似商標であっても、例外的に登録を認める」という制度です。
商標法第4条第4項に規定されており、正式には「商標権者の承諾がある場合の例外規定」と呼ばれます。
この制度の目的は、下記のような場合に、柔軟な商標登録を可能にし、無用なトラブルを避け、ビジネスの実態に即した運用を促すことにあります。
混同のおそれが実際には低い場合:法律上は「類似」と判断されても、実際のビジネスでは消費者が混同する可能性が低いケース。
当事者間で共存の合意がある場合:先行商標権者と出願人の間で、商標の共存について合意が形成されているケース。
その他関連性が認められる場合:親子会社関係ではないもののグループ会社などの先行商標権者と出願人が関連会社などであるケース。
コンセント制度を適用して商標登録を行うには、以下の4つの条件をクリアする必要があります。
出願しようとする商標が、先行する登録商標と「同一または類似」である必要があります。ここが最も重要な前提条件です。もし商標自体が類似しないのであれば、そもそもこの制度は不要です。
出願しようとする商品・役務が、先行する登録商標の指定商品・役務と「同一または類似」である必要があります。これも制度が適用されるための前提です。
最も重要なのが、先行する登録商標の権利者から、出願する商標の登録について明確な「承諾」を得ることです。この承諾は、通常、書面(承諾書)で提出する必要があります。
たとえ先行商標権者の承諾があったとしても、特許庁の審査官が「実際に消費者の間で混同が生じるおそれがある」と判断した場合は、登録は認められません。承諾はあくまで登録を可能にするための「前提条件」の一つであり、最終的には特許庁が、商標の具体的な使用状況、指定商品・役務の関連性、業界の実態などを総合的に考慮し、混同のおそれが生じるか否かを判断します。
なお、この商標法第4条第4項は適用事例が2025年9月現在で極めて少ないため、今後の特許庁判断の蓄積により判断軸が示されることとなるでしょう。
令和5年の商標法改正により、先行登録商標権者の承諾(コンセント)があり、かつ混同のおそれがないと認められる場合には、例外的に登録が可能となりました。
この制度の導入により、ブランド選択の自由度が高まり、特に中小企業やスタートアップ企業にとって、知的財産を活用した新規事業の展開がしやすくなります。また、すでに多くの国・地域で導入されている制度であることから、国際的な制度調和の観点でも意義深い改正です。
なお、改正法の施行日は令和6年4月1日であり、それ以降の出願に対して適用されます。
コンセント制度を適用した初の商標登録
令和7年4月7日、特許庁はコンセント制度を適用した初の商標登録が行われました。
この登録は、先行登録商標権者の承諾を得たうえで、混同の恐れがないと判断された出願商標に対して認められたものです。
詳細は、経済産業省の公式発表をご覧ください。
参照:経済産業省|「コンセント制度」を適用した初の商標登録を行いました

①新規事業のチャンス拡大
先行登録商標があっても、ブランド名の変更等を強いられることなく、交渉さえまとまれば使用してきたブランド名または使用を希望するブランド名にて事業を展開できる可能性が広がります。
②無駄な紛争の回避
商標権侵害を巡る紛争を未然に防ぎ、訴訟コストや時間を節約できます。
コンセント制度は互いに権利化を認めるものです。よって、互いの友好的な使用の暗示的な契約締結行為と考えることもできます。原則はその後の使用も権利範囲内では自由にできることになります。
③柔軟な商標戦略
ビジネスの実態に合わせた柔軟な商標戦略を立てることが可能になります。
商標登録は基本ブランド展開をする以前に完了しておくことが望ましいものです。
しかし、一時的なコラボ商品や季節商品などが予期せずにヒット商品となり、その名称の事後的な保護を望む場合も当然あります。
当初はそのブランド名の保護を望まなかった場合で、かつそのブランド名と類似の登録商標がすでに存在する場合でも、このコンセント制度が新設されたことにより、使用権の設定や許諾という手法に頼ることなく、自身が権利者になることも可能になったのです。
①先行商標権者の承諾が必要
先行商標権者にとって交渉および承諾は義務ではありません。よって、先行商標権者が承諾を拒否すれば、当然この制度は利用できません。また、承諾の条件として金銭的な要求をされる可能性もあります。さらに、先行商標権者は自身の類似商標のブランド名が使用されることにもなりますので、特にブランド名の希釈化をよしとしない企業からの承諾は得にくいことも考えられます。
つまり、いずれのケースにおいても出願人は先行商標権者の動向に左右されてしまうことにはなります。
②混同のおそれの立証と特許庁の判断
承諾書があれば必ず登録されるわけではありません。最終的には特許庁の審査官が「消費者の混同のおそれがない」と判断する必要があります。この判断基準は明確でなく、専門的な見地からの主張や立証が求められます。
一般的に考えて、有名ブランド名を一部に含む商標は「この混同のおそれがない」という要件にひっかかる可能性があります。
例えば、UNIQLOの有名な登録商標がある状況で、UNIQLO SHOPなる商標を登録しようとしているケースを考えてみます。仮にUNIQLO商標権利者の許諾を得られたとしても、やはり一般人からするとUNIQLO SHOPからはUNIQLOを想像します。よって、有名ブランド名を一部に含む商標はこのコンセント制度は利用しにくいことが想定されます。
③将来的なリスク
制度を利用して登録できたとしても、将来的に事業拡大などによって混同のおそれが生じるような状況になった場合、再びトラブルになる可能性もゼロではありません。
例えば、想定される問題としてフリーライド的使用が考えられます。
コンセント制度利用後に一方の商標(ブランド名)が極めて有名になるケース。この場合、もう一方の類似商標を保有する権利者は宣伝広告費用その他の労力を負担することなく、「著名」商標(ブランド名)を使用できることになります。このような類似商標におけるブランドの認知力の不均衡が生じてしまった場合にどう判断されるのかは今後の課題となりそうです。
専門家の助言が不可欠: 承諾書の作成や特許庁への説得、将来のリスク予測など、複雑な対応が必要となるため、弁理士などの専門家への相談が不可欠です。
① 商標権譲渡の前提としてのコンセント
商標権の譲渡を検討する際、譲渡先が既に類似商標を保有している場合、従来は登録が困難でした。コンセント制度により、譲渡先が出願した商標に対して、譲渡元が承諾することで登録が可能になるため、譲渡前後のブランド整理がしやすくなります。
② 併存契約と譲渡の併用
コンセント制度は、商標の併存を前提とした契約(併存契約)と相性が良く、譲渡契約と併せて活用されることがあります。例えば、A社がB社に商標権を譲渡する際、B社が類似商標を既に使用している場合、コンセント+譲渡契約により両商標の併存と権利移転が可能になります。
③ M&Aやブランド再編時の活用
企業買収やブランド統合の場面では、複数の類似商標が存在することが多く、コンセント制度によりスムーズな商標整理が可能。特にスタートアップや中小企業が大手企業に買収される際、既存ブランドとの混同リスクを回避しつつ商標権を譲渡・取得できる点は実務上のメリットです。
①コンセント制度は「承諾があれば何でも登録できる」わけではなく、混同の恐れがないことを審査官が判断する必要があります。
② 商標権の譲渡後に、混同が生じた場合は取消審判の対象となる可能性もあるため、契約書で混同防止措置を明記することが重要です。
参照:特許庁|コンセント制度の導入
商標のコンセント制度は、商標登録の柔軟性を高め、ビジネスの実態に合わせたブランド展開を可能にする画期的な制度です。しかし、その利用には先行商標権者との交渉や特許庁への適切な主張が必要であり、専門的な知識が求められます。
もし、あなたが「類似の先行商標があって困っている」「既存の商標を別の用途で使いたいが登録できない」といった状況に直面しているなら、このコンセント制度の活用を検討する価値は大いにあります。必要に応じて商標の専門家である弁理士に相談し、最適な戦略を立てることをお勧めします。

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