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スタートアップ企業が商標登録する...

#商標の基礎知識

スタートアップ企業が商標登録するメリットや注意点、適切なタイミングを解説

公開日:

2026/05/20

更新日:

2026.06.30

スタートアップ企業を立ち上げ、やっとの思いで最初のプロダクトやサービスを市場にリリース。徐々に顧客の反応が得られ始め、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)の兆しが見えてきた頃に経営者の頭をよぎるものの一つが「商標登録」など知財関連のトピックです。

商標がいずれ必要ということは理解できても、リソースが限られているスタートアップが、どのタイミングで、どのような目的・メリットを求めて商標という領域に投資すべきなのか、具体的なイメージが湧きづらいのは当然でしょう。

本記事では、特にPMFが見え始めたスタートアップ企業に向けて、商標登録の適切なタイミング、具体的なメリット、そして手続きを進める上での注意点を解説します。

スタートアップと商標登録の機会

スタートアップ企業の創業初期(シード期)においては、ビジネスの対象領域における課題の発見と、それを解決するプロダクト・サービスのリリース、そして「本当に顧客に求められているか(PMFが得られるか)」の検証にすべてのリソースが投下されます。

この段階では、日々の開発や顧客ヒアリング、目先のキャッシュフロー管理が最優先事項となります。反面、知的財産(IP)の確保については、研究開発重視のディープテック領域における特許はともかくとして、商標の登録は少し先のタイミング、言ってしまえば「二の次」と考えるケースも多いのが現実です。

この段階で、急いで多額の費用をかけて商標を出願・登録する必要は必ずしもありません。サービス名が定着する前にピボット(事業内容の方向転換)を行い、名称自体が変わってしまう可能性もあるからです。

最低限の調査はやっておくべき

しかし、出願を後回しにするとしても、「最低限のクリアランス調査(事前の商標検索)」だけは絶対に欠かしてはいけません。 自社がリリースしようとしているサービス名や、それに非常に近い名称が、すでに競合他社や近いジャンルの企業によって商標登録されていないかを、J-PlatPatなどのデータベースで事前にチェックしておく必要があります。

もし、他人の登録商標と知らずに同じようなサービス名を使い始め、少し売上が立ってきたタイミングで相手方から「商標権侵害による使用差し止め・損害賠償請求」の警告書が届いてしまえば、スタートアップにとって致命傷になりかねません。せっかく認知され始めたサービス名の変更(リブランディング)を余儀なくされ、ドメインの変更、アプリの改修、パンフレットの刷り直しなど、多大なコストと時間のロスが発生します。事前のチェックは、事業を守るための最低限の防波堤になります。

スタートアップが商標登録するタイミング

では、具体的にいつ商標登録に向けて動き出すべきなのでしょうか。早いぶんにはこしたことはありませんが、「サービスやプロダクトをリリースし、PMFが見えてきたタイミング」こそが、商標登録を本格的に検討・実行する最も現実的かつ最適なタイミングです。

PMFが見え始めたということは、事業が「仮説検証のフェーズ」から「スケール(拡大)のフェーズ」へと移行することを意味します。このタイミングになると、スタートアップは次なる成長に向けてさまざまな準備が本格化します。

  • 外部からの資金調達(シリーズA以降)の準備
    ベンチャーキャピタル(VC)などの投資家から資金を調達する際、投資家は「デューデリジェンス(法務・財務などの詳細な調査)」を行います。このとき、事業の根幹となるサービス名が商標登録されておらず、他者から差し止めを受けるリスク(事業継続の阻害要因)が放置されていると、投資家からマイナス評価を受けたり、出資の条件として商標権の確保を求められたりすることがあります。強固なエクイティストーリー(企業価値向上の筋道)を描き、資金調達をスムーズに進めるためにも、商標権という独占排他権は重要なパーツです。

  • 人材採用とバックオフィス機能の強化
    事業拡大に伴い、優秀な人材の採用が急務となります。また、企業としてのガバナンスやバックオフィス体制の構築も求められます。商標権をはじめとする知的財産の管理体制が整っていることは、求職者や提携先企業に対して「リスク管理ができている、きちんとした会社である」という信頼感を与えることにつながります。

PMFを控え、今後のサービスの提供蓋然性(確実に事業を継続・拡大していける見込み)を高めるためにも、事業の顔であるブランド名を法的に保護することは重要な施策の一つです。

スタートアップが商標登録するメリット

スタートアップが自社サービスの商標を登録することには、単なる「安心感」を超えた、事業成長に直結する具体的なメリット(主に防衛的メリット)があります。

1. 悪意ある第三者からの「商標の横取り」を防ぐ(強力な防御効果)

スタートアップが対象にする事業領域は多産多死でスピードが速く、インフルエンサーの紹介やSNSでのバズをきっかけに、数日〜数週間で急激に認知が跳ね上がるサービスも珍しくありません。 急激に知名度が上がった際、最も恐ろしいのが「商標の横取り(冒認出願)」です。サービスの成功に目をつけた第三者が、あなたが商標登録していないことをいいことに、先に商標を出願・登録してしまうケースです。

彼らはその知名度にタダ乗りして利益を得ようとしたり、高額な商標の買い取りやライセンス料を要求してきたり(商標トロール)します。商標権は原則として「早い者勝ち(先願主義)」であるため、これを防ぐには自ら先に権利化しておくしかありません。

2. プラットフォーム(App StoreやGoogle Playなど)でのリスク排除

スマートフォンアプリやWebサービスを展開している場合、商標権はプラットフォーム上での身を守る強力な武器になります。 もし競合他社が似たような名前のアプリをリリースしてきた場合、商標権を持っていれば、AppleやGoogle、Amazonといったプラットフォームに対して権利を主張できます。逆に、自分が商標を取っていないと、悪意ある第三者に商標を取られた上でプラットフォーム側に通報され、自社のアプリや販売商品がある日突然ストアから消されてしまうという恐ろしいリスクの可能性もあります。

3. 多様化するユースケース(ロゴやアイコン)の保護

商標は単なる「文字(名称)」だけではありません。スマホアプリのアイコン、SNSアカウントのプロフィール画像、Webサイトのヘッダーロゴなど、文字と図形が組み合わさった「ロゴ商標」など、ユースケースは非常に多様です。C向けサービスであればキャラクターグッズ化などのように用途が広がる可能性もあります。これらの視覚的なアイデンティティも自社の重要な資産であり、商標登録することで、類似するデザインを用いた模倣サービスの登場を牽制できます。

4. メディア露出(テレビCMなど)や海外展開への布石

大規模なマーケティング施策(テレビCMや交通広告など)を実施する際、広告代理店やメディア側から「商標登録の有無(または他社の権利を侵害していないか)」の確認を求められるのが一般的です。

また、将来的にグローバル展開を見据える場合、日本国内での商標登録を基礎として、マドリッド協定議定書(マドプロ)などを活用し、海外での商標取得をスムーズに進めることができます。目に触れる機会が増えれば増えるほど、他者とバッティングする可能性は高まるため、事前の商標登録は事業を止めないための必須の保険となります。

スタートアップの商標登録における注意点

商標登録のメリットは非常に大きいですが、スタートアップならではの事業環境を踏まえ、手続きを進める上ではいくつか注意すべきポイントがあります。

1. 適切な「区分」の選択と、事業計画とのバランス

商標を出願する際は、その商標を使用する商品やサービスのカテゴリである「区分(全45類)」を指定する必要があります。 

将来の成長やピボットの可能性を見越して、「周辺領域でサービスが増えるかもしれないから」と関連しそうな区分を片っ端から指定したくなるかもしれません。しかし、指定する区分が増えれば増えるほど、特許庁へ支払う印紙代や専門家への報酬などの「費用」が比例して増加します。さらに、実際にその事業を行っていない(あるいは近い将来に行う明確な予定がない)のに広範な区分を指定すると、特許庁から登録を拒絶される可能性があります。

また、登録後であっても、3年以上継続してその商標を使用していない区分については、第三者からの請求によって権利を取り消される「不使用取消審判」のリスクがあります。 限られた資金の中で、現在のコア領域と、直近1〜2年で確実に展開する周辺領域に絞って区分を指定するなど、事業成長とのバランスが取れた検討が必要です。

参照:商標登録の区分とは?45分類の商品・役務を一覧で解説

2. 「社名」と「サービス名」の関係性の整理

スタートアップでは、初めは異なる名前だった「社名」と「主力プロダクト・サービス名」を、認知度向上のために後から統一するケースが多々あります。

ですが、社名(商号)の登記と、サービス名の商標登録は全く別の制度です。法務局で社名登記できたからといって、その名前で商標権侵害にならないとは限りません。将来的にサービス名を社名にする可能性がある場合は、文字商標としてしっかり広範囲に権利を押さえておくなどの配慮が必要です。

3. M&A(イグジット)を見据えた権利の帰属

スタートアップの出口戦略(イグジット)として、IPOだけでなくM&A(バイアウト)も一般的な選択肢です。M&Aの際、買い手企業は対象企業の無形資産(ブランド価値や顧客基盤)を高く評価します。このとき、サービスの名称が商標登録され、法的に保護された状態であることは、企業価値(バリュエーション)を算定する上でポジティブな要素となります。逆に、商標権が未取得であったり、会社ではなく代表者個人の名義で登録されていたりすると、ディールにおいてマイナス評価となったり、後々に権利移転のトラブルになったりする可能性があります。事業を運営する法人名義で適切に管理しておくことが重要です。

4. 存続期間の選択(5年か10年か)

商標権の存続期間は原則として登録日から10年ですが、登録料を分割して「まずは5年分」だけ支払うことも可能です(前期・後期分割納付)。スタートアップの場合、5年後に同じビジネスモデル、同じ名称で事業を継続しているか不確実な部分も大きいため、初期費用を抑えるためにまずは「5年」で登録し、更新時期が近づいた際に見直すというのも、キャッシュフローに優しい選択肢です。

スタートアップにとって、商標登録は単なる「法的な手続き」ではなく、「自社が築き上げたブランドと顧客からの信頼を、自らの手で守り抜くための戦略」そのものです。PMFの兆しが見え、事業のアクセルを踏み込むそのタイミングで、自社の知的財産のリスクと機会について棚卸しすることをおすすめします。

参照:商標権の期限・耐用年数について解説 

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