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音や匂いも商標になる?非伝統的商...

#商標の種類・具体例

音や匂いも商標になる?非伝統的商標の世界について

公開日:

2026/06/11

更新日:

2026.06.30

ビジネスにおける「ブランド」といえば、かつては社名やロゴマークといった、視覚的に認識できる要素を指すのが一般的でした。しかし、消費者の体験が多様化した現在、ブランドの価値は視覚だけにとどまらず、音や色、触感、空間の雰囲気など、五感全体へと広がりつつあります。

こうした背景のもと、2015年の法改正以降、日本でも注目を集めているのが 「非伝統的商標(新しいタイプの商標)」 です。 音や色彩、動きといった、これまで商標として保護されることが少なかった要素が新たに対象となり、将来的には「匂い」や「味」といった感覚的な要素が保護される可能性も期待されています。

本記事では、ブランドの概念を拡張するこの新しい商標制度について、その特徴や可能性を解説します。

1. 非伝統的商標とは何か?

非伝統的商標とは、従来の「文字」「図形」「記号」「立体的形状」といった枠組みに収まらない、新しいタイプの商標を指します。 この概念が注目されるようになった背景には、企業のマーケティング手法の変化があります。テレビCMのサウンドロゴ、商品の独特な色彩、スマートフォンアプリの起動音など、消費者は今や目だけでなく、耳や感覚によってブランドを識別するようになりました。

こうした時代の変化を受け、日本でも2015年の法改正以降、以下の5種類の非伝統的商標が登録可能となっています。

参照:特許庁|新しいタイプの商標保護制度 

  • 音商標(メロディ、サウンドロゴ、音声など)

  • 色彩のみからなる商標(単色、または複数色の組み合わせ)

  • 動き商標(ロゴが動くアニメーションなど)

  • 位置商標(ロゴや図形を付す“場所”を特定したもの)

  • ホログラム商標(見る角度によって変化する文字や模様)

これらは、ブランド体験が視覚中心の時代から、五感へ広がる時代へと移行していることを象徴する存在だといえます。

参照:色彩商標とは?事例や他の商標との違いについて解説

2. 登録の最難関「色彩のみからなる商標」の裏側

非伝統的商標の中でも、特に登録のハードルが高いとされているのが 、色彩のみからなる商標 です。 色は本来、誰もが自由に使えるべき公共財のような性質を持っています。そのため、単に「自社の商品はこの色です」と主張するだけでは、特許庁は独占を認めません。

■ 登録の鍵となる「特別顕著性」とは

色彩商標が登録されるためには、 文字やロゴがなくても、その色だけで企業や商品を即座に連想できる、というレベルの圧倒的な認知度が必要です。

これは法律上「特別顕著性」と呼ばれ、全国的な知名度・長年の使用実績・広告投下量・市場シェアなど、多角的な証拠によって裏付けられなければなりません。

つまり、色そのものがブランドの象徴として社会に浸透しているかが問われるわけです。

■ 成功例:色がブランドそのものになったケース

これらは、色が単なるデザインではなく、企業のアイデンティティとして機能していることを証明できた稀有な例です。

■ 失敗例:単色はほぼ不可能に近い

一方で、多くの企業が挑戦している「単色」の登録は、極めて難易度が高い領域です。理由は明確で、 特定の色を1社が独占すると、他の事業者の活動を不当に制限する恐れがあると判断されやすいからです。

実際、黄色、赤、青、緑 など、さまざまな単色での出願が行われていますが、その多くが「公益に反する」 という理由で拒絶されています。

■ なぜここまで厳しいのか?

色は、業界全体で広く使われる、商品の機能性に関わる(例:注意喚起の赤、環境配慮の緑)、デザインの自由度を大きく左右する といった性質があるため、独占を認めると市場競争を阻害する可能性が高いからです。そのため、特許庁は色彩商標に対して特に慎重な姿勢を取っています。

3. 「音」がもたらすブランドの瞬間認識

非伝統的商標の中でも、最も実用的かつ成功例が多いのが 「音商標」 です。 音は視覚よりも早く脳に届き、言語や文化を超えてブランドを想起させる力を持っています。そのため、企業にとって“瞬間的にブランドを伝える資産”としての価値が急速に高まっています。

■ サウンドロゴが持つ圧倒的な認知力

たとえば、

これらは、言葉を聞かなくても、ロゴを見なくても、音が鳴った瞬間にブランドの名前が思い浮かぶほどの認知力を持っています。 音は視覚情報よりも処理が速く、記憶にも残りやすいという特性があります。

■ デジタル時代が音の価値を押し上げる

さらに、現代はデジタルデバイスとの接点が爆発的に増えています。スマートフォンアプリの通知音、家電の起動音、電気自動車(EV)の走行音など、こうした「音」によるコミュニケーションが日常のあらゆる場面に入り込んでいるため、音そのものがブランド体験の一部として機能する時代になっています。

特にEVの走行音は、静音性が高いがゆえに、安全のために人工的に音をつける必要があり、その音をブランドの個性として設計するという新しいブランディング領域も生まれています。

参照:トレードマークとは ? 種類の解説と有名な例を紹介

4. 未知の領域「匂い・味・触感」の商標

世界に目を向けると、日本ではまだ導入されていない、さらに新しいタイプの商標が存在します。 それが匂い・味・触感 といった、より感覚的で抽象度の高い商標です。いずれもブランド体験の重要な要素でありながら、法制度としては未成熟な領域で、各国で試行錯誤が続いています。

① 匂いの商標(Scent Mark)

欧米や韓国などでは、すでに登録例が生まれています。

■ 登録例

  • ハズブロ社(USA)Play-Doh(小麦粘土)バニラ、チェリー、ムスク、小麦生地の混合(60年以上の使用実績、圧倒的な知名度を有しているなどから)

匂いは記憶と強く結びつくため、ブランド体験としては非常に強力な要素です。 しかし、日本や欧州の一部では、匂いを客観的にどう図示するかという技術的な課題が大きく、導入が進んでいません。

参照:特許庁|新しいタイプの商標の保護制度に関するQ&A 

以下、新しいタイプの商標の保護制度に関するQ&Aより抜粋

Q1-12 「におい」や「味」等の今回の法改正では保護対象とならなかった商標について、今後保護対象に追加されることはあるのでしょうか?

「におい」等の商標については、諸外国での登録事例も少なく、現時点では我が国企業等のニーズも高くない状況です。今後の新たな保護対象の追加については、国際的な動向や我が国企業等のニーズを踏まえて、保護の在り方を検討する予定です。

② 味の商標(Taste Mark)

理論上は存在しますが、実際の登録例はほぼありません。

■ 過去の検討例

  • オレンジフレーバー付きの錠剤 → しかし「味は商品の機能(飲みやすさ)に直結するため、独占させるべきではない」と判断され、拒絶。

味は、商品の機能性と密接に関わるため、特定企業が独占すると市場競争を阻害する という理由で、世界的にも認められにくい領域です。

③ 触感の商標(Texture/Touch marks)

触ったときの質感によってブランドを識別するタイプの商標です。

■ 登録例

  • 商品「ワイン」(USA)に ついて、「ベルベットのてざわり」の触覚

触感は視覚や音よりも“無意識に記憶される特徴があり、 ブランド体験としてはとても強力なものです。ただし、どの部分の触感か、どの程度の凹凸・質感か、客観的にどう表現するか といった点で、制度化にはまだ課題が残っています。

6. まとめ ― 五感の知財戦略へ

「商標=ロゴマーク」という時代は、すでに過去のものになりつつあります。 これからの企業は、消費者が商品に触れ、音を聞き、空間の色彩を感じる――そのすべての接点において、 「これは自社のブランドである」 と自然に伝わるような、知財の網を張ることが求められます。

視覚だけでなく、音、色、動き、触感、そして将来的には匂いや味までもが、ブランドを形づくる重要な要素となる時代です。 何気なく使っているサウンドロゴや色の組み合わせが、将来、他社には真似できない強力な商標資産となり、数億円規模の価値を生む可能性もあります。

※本記事では商標制度の概要を解説していますが、実際の出願にあたっては、識別力の判断や使用実績の立証など、専門的な対応が必要となる場合があります。具体的な手続きについては、弁理士へのご相談をおすすめいたします。

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