#商標の基礎知識
公開日:
2025/10/31
更新日:
2026.06.30

近年、スモールビジネスやフリーランスの方々が、弁理士などの専門家に依頼せず、ご自身で商標の出願・登録(DIY出願)を行うケースが増えています。コストを抑えられるメリットは大きいですが、その際にかかる特許庁への支払い費用を「経理上、どの勘定科目で処理すればよいか」という問題に直面します。
商標権は会社の「資産」に関わる重要な項目です。会計処理を誤ると、決算書の正確性が損なわれる可能性もあります。
この記事では、自分で商標出願・登録を行った際にかかる費用の会計処理と、使用すべき勘定科目について、出願時から登録後までを詳しく解説します。

まず大前提として、会計(簿記)の世界において、商標権 は法的に保護された排他的な権利であり、長期(10年、更新可能)にわたって事業の収益に貢献するものであることから、「無形固定資産」に分類されます。
これは、建物や機械装置といった「有形固定資産」の目に見えないバージョンだと考えると分かりやすいでしょう。ソフトウェアや特許権なども同じ無形固定資産の仲間です。
無形固定資産に計上するということは、その権利を取得するために「直接」かかった費用を「資産の取得原価」として計上し、原則としてその後の決算時に「減価償却」という手続き(費用の配分)を行っていく必要があることを意味します。
DIY出願で発生する費用の会計処理は、この「商標権という資産を取得するまで」と「取得した後」で、処理方法が変わってくるのがポイントです。
弁理士に依頼する場合、弁理士報酬(手数料)と特許庁に支払う「実費(印紙代)」が発生します。DIY出願の場合、当然ながら弁理士報酬はかかりませんが、以下の実費は必ず発生します。
出願料(出願時手数料)
特許庁に「この商標を出願します」という申請(願書)を提出する際に支払う費用。
(例)1区分の場合:3,400円+(8,600円×1区分)=12,000円
登録料(設定登録料)
特許庁の審査を無事に通過し、「登録査定」の通知が来た後に、商標権を正式に設定するために支払う費用。5年分または10年分を選択して納付します。
(例)1区分・10年分の場合:32,900円×1区分=32,900円
これらの費用は、特許庁の窓口で「特許印紙」を購入して願書や納付書に貼り付けて支払うか、電子出願の場合は口座振込などで納付します。
では、これら「出願料」と「登録料」は、それぞれどの勘定科目で処理すべきでしょうか。
商標出願は「出願したからといって、必ず登録されるとは限らない」という不確実性があります。そのため、支払いが発生したタイミングと、会計処理のステップを分けて考えるのが実務的です。
ここでは、最も一般的で分かりやすい処理フローをご紹介します。
出願時には、まだ商標権という資産が手に入るか分かりません。審査で拒絶される可能性もあります。
この段階で支払う「出願料」は、特許庁という行政機関に支払う手数料・公租公課の一種として、「租税公課」という勘定科目(費用)で処理するのが一般的です。
<仕訳例:出願料12,000円を現金で支払った(特許印紙を購入した)>
(借方)租税公課 12,000円 / (貸方)現金預金 12,000円
※この時点ではまだ「商標権」という資産科目は使いません。
審査を通過し、登録査定の通知が届いたら、登録料を納付します。この支払いによって、正式に商標権が発生します。
この「登録料」も、特許庁への支払いであるため、出願料と同様にいったん「租税公課」として処理します。
<仕訳例:登録料32,900円を現金で支払った>
(借方)租税公課 32,900円 / (貸方)現金預金 32,900円
登録料を納付し、商標原簿に登録された日(設定登録日)をもって、法的に商標権が発生します。この日(または決算整理時)に、会計上も「資産」として計上する処理を行います。
ここで重要なのは、商標権の「取得原価」です。 取得原価には、その資産を取得するために直接要した費用が含まれます。DIY出願の場合、「出願料」と「登録料」の合計額が、この取得原価にあたります。
ステップ1と2で「租税公課」として費用処理した金額を、資産である「商標権」に振り替える(移動させる)仕訳を行います。
<仕訳例:出願料12,000円と登録料32,900円の合計を「商標権」に振り替える>
(借方)商標権 44,900円 / (貸方)租税公課 44,900円
【処理のポイント】
この振替仕訳により、ステップ1と2で計上した「租税公課(費用)」が貸方にきて相殺され、結果的に「商標権(資産)」44,900円が計上されたことになります。 最初から「商標権」で処理するのではなく、登録が確定した段階で費用勘定から資産勘定へ振り替えることで、不確実性に対応した正確な会計処理が可能になります。
残念ながら審査の結果、出願が拒絶され、それを不服として審判を請求したりせず、出願を諦めた(放棄した)場合も考えられます。
この場合、商標権という資産は発生しません。
ステップ1で支払った「出願料」は、すでに「租税公課」(費用)として処理されています。資産は生まれなかったため、ステップ3の「商標権」への振替仕訳は行いません。
結果として、出願料の12,000円は、その期の「租税公課」という費用(コスト)として確定します。
商標権を無事取得(資産計上)した後も、会計処理は続きます。
無形固定資産は、その効果が及ぶ期間(法定耐用年数)にわたって、費用化していくルールがあります。これを「償却」と呼びます。
商標権の法定耐用年数は10年です。 会計上は、原則として「定額法」(毎年均等額を費用化する方法)で償却します。
償却時に使う勘定科目は「減価償却費(げんかしょうきゃくひ)」です。
<仕訳例:取得原価44,900円の商標権を、決算時に10年で償却する(1年分)>
(計算)44,900円 ÷ 10年 = 4,490円
(借方)減価償却費 4,490円 / (貸方)商標権 4,490円
※この処理を10年間にわたって毎年行い、商標権の資産価値を徐々に減らしていきます(直接控除法)。
商標権は10年ごとに更新が可能です。DIYで更新手続きを行う場合も、特許庁に「更新登録料」を支払う必要があります。
この「更新登録料」は、新たに資産を取得する費用(取得原価)ではなく、すでに保有している資産の権利を「維持」するための費用(メンテナンスコスト)と考えます。
したがって、更新登録料は資産(商標権)には計上せず、支払った期の「租税公課」として全額を費用処理します。
<仕訳例:更新登録料(10年分)43,600円を支払った>
(借方)租税公課 43,600円 / (貸方)現金預金 43,600円
※「商標権」や「減価償却費」は使いません。
DIYで商標出願・登録を行う際の勘定科目のポイントをまとめます。
出願料(出願時)
→ 支払時に「租税公課」(費用)として処理。
登録料(登録査定後)
→ 支払時に「租税公課」(費用)として処理。
資産計上(登録日)
→ 「出願料+登録料」の合計額を、「租税公課」(費用)から「商標権」(無形固定資産)へ振り替える。
拒絶された場合
→ 「出願料」は「租税公課」(費用)のまま。資産計上はしない。
決算時(登録後)
→ 「商標権」の取得原価を10年で償却。「減価償却費」(費用)を計上する。
更新時(10年後)
→ 更新登録料は「租税公課」(費用)として処理。(資産計上はしない)
商標権は、ビジネスを守り育てるための重要な資産です。DIYでコストを抑えつつ、会計処理も正しく行い、自社の財務状況を正確に把握できるようにしておきましょう。 (※本記事は一般的な会計処理を解説したものであり、個別の税務判断については税理士等の専門家にご相談ください。)
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