#商標の区分・指定商品役務
公開日:
2026/06/03
更新日:
2026.06.30

飲食店を開業し、軌道に乗ってくると考えなければならないのが「ブランドの保護」です。せっかく愛着を持って育てた店名やロゴ、看板メニューの名前を他人に模倣されたり、先に商標登録されたりしては、これまでの努力が水の泡になりかねません。
商標登録を行う際、最も重要であり、かつ戦略が必要なのが「区分」の選択です。商標は45の区分に分類されており、どの区分を指定するかによって、保護できる範囲が劇的に変わります。本記事では、飲食店のビジネスモデルが多様化する現代において、どの区分をどのように選ぶべきか、実務的な視点から詳しく解説します。

商標登録とは、単に名前を登録するだけではありません。「どの商品・サービスに対してその名前を使用するか」をセットで登録する仕組みです。特許庁は、世の中のあらゆる商品やサービスを 1〜45の区分 に分類しています。
1〜34類:商品(モノ)に関する区分
(例:調味料、冷凍食品、清涼飲料水、衣類など)
35〜45類:サービス(役務)に関する区分
(例:飲食店の経営、小売、配送、教育など)
飲食店は「食事を提供するサービス業」であるため、基本的にはサービス区分を検討しますが、テイクアウトや通販を行う場合は商品区分も必要になります。「広く取れば安心」と考えがちですが、不要な区分まで取ると費用がかさむだけでなく、一定期間使用していないと取り消されるリスク(不使用取消審判)もあるため、適切な選定が求められます。
不使用取消審判とは…他人が登録した商標権について、継続して3年以上日本国内で全く使用されていない場合に、その登録の取り消しを特許庁に請求する手続きのこと
参照:特許庁|商標登録取消審判
飲食店の商標登録において、基盤となるのが 第43類 です。 店名(屋号)やロゴマークを「飲食店として」保護するための基本となる区分であり、 レストラン、カフェ、居酒屋、ラーメン店、バーなど、業態を問わず その場で飲食物を提供するサービス はすべてこの区分に含まれます。
第43類で保護できる範囲の具体例
店舗の看板や暖簾(のれん)
店内で使用するメニュー表
ショップカードやコースターなどの販促物
公式WebサイトやSNSでの店舗紹介
店内で提供される料理名(看板メニュー名など)
第43類は、飲食店としてブランドを守るための土台となる区分です。 商標登録を検討する際には、最初に指定すべき区分といえます。
最近では、店内飲食(オンプレミス)だけでなく、中食(なかしょく)やEC展開に力を入れる店舗が増えています。この場合、第43類だけでは不十分で、「商品そのもの」を保護する区分が必要になります。
植物性の加工食品や、主食に近いものが該当します。
具体例—— 自家製ラーメンの生麺・スープ、秘伝のタレ、ドレッシング、ケーキ、クッキー、コーヒー豆など。
動物性の食品や、調理済みの惣菜・冷凍食品が該当します。
具体例—— 冷凍餃子、冷凍唐揚げ、レトルトのおかずパック、ハム・ソーセージなど。
具体例—— 自社ブランドのジュース、ミネラルウォーター、クラフトビール(瓶・缶入り)など。
具体例—— オリジナルの日本酒、焼酎、ワイン、ウイスキーなど(ビール以外のお酒)。
ブランドを立ち上げる際に、ロゴを使ったオリジナルグッズや自社商品の展開を検討するケースが増えています。特に、ロゴ入りグッズ(マグカップ・タンブラー・雑貨など)を販売する場合は第21類、食品や加工品などのオリジナル商品を扱う場合は第29類が関係するため、商標登録の段階でこれらの区分を適切に選ぶことが重要です。
ロゴ入りグッズ(第21類)とオリジナル食品(第29類)は、どちらもブランドの認知を広げるうえで効果的な手段ですが、商標区分の選択を誤ると権利が及ばない範囲が生まれてしまうため、出願時にしっかりとカバーしておくことが大切です。
店舗運営やサービス提供の場面では、メニュー・パンフレット・チラシなどの印刷物は第16類に分類されます。デザイン性の高いメニューやブランド冊子を作る場合、ロゴの無断利用を防ぐためにも、この区分をカバーしておくことが有効です。さらに、スタッフが着用する制服やアパレル類は第25類に該当します。飲食店やサロン、スクールなど、制服にロゴを入れるケースは多く、ここを押さえておかないと、衣類分野での権利が及ばず、第三者に似たデザインを使われる可能性もあります。
飲食店が物販やネットショップを行う場合、商品そのものの区分に加えて検討したいのが 第35類(小売・卸売サービス) です。これは「商品を売るためのサービス」に対する権利です。
店頭やECサイトでオリジナルグッズを販売する、セレクトショップのように他社商品も並べて販売する、フランチャイズ(FC)展開を行い、加盟店への経営指導を行う、など。特にフランチャイズ展開を視野に入れている場合、第35類での権利確保が必要となってきます。
自社で独自の配達員を抱え、デリバリーサービスを行う場合は 第39類(運送・配送) が検討対象になります。
「料理を作る(43類)」ことと「料理を運ぶ(39類)」ことは特許庁の分類上別物です。自社アプリ等で大規模にデリバリー事業を展開する場合は、ブランドを守るために必要となるケースがあります。
店舗の知名度が上がり、シェフによる料理教室やワークショップ、食に関するセミナーを開催する場合は 第41類(教育・娯楽・知識の教授) を追加します。レシピ本の出版(電子書籍を含む)や、YouTube等での動画配信による教育活動もこの区分に関連します。
飲食店の区分参照:飲食店が知っておきたい商標登録のメリットや登録しないリスク
① 第43類ですべて守れるという誤解
「ラーメン屋だから43類でOK」と安心していると、他社に「同じ名前のカップラーメン」を第30類で売り出された際に差し止められないリスクがあります。物販を行うなら商品区分は必須です。
② 区分を取ればその範囲をすべて独占できるわけではない
商標の効力は「区分」という大きな箱だけでなく、その中の指定商品・指定役務という具体的な言葉によって決まります。実務に即した正確な言葉選びが重要です。
③ 区分は多ければ多いほど良いわけではない
区分を増やすと登録料や更新料が増えます。また、3年以上その区分で商標を使用していない場合、他者から上記でも説明したように「不使用取消審判」を請求され、権利を取り消されるリスクが生じることもあります。
申請前に、以下の項目を整理してみましょう。
店名・ロゴをどこに表示しているか?(看板?パッケージ?)
店内飲食以外に、持ち帰りやネット販売はあるか?
自社ブランドとしてパッケージ化した食品を外部に卸す予定はあるか?
将来的にフランチャイズ展開やライセンス提供を考えているか?
ロゴ入りのTシャツや食器などのグッズ販売を検討しているか?
区分参照記事:商標登録の区分とは?45分類の商品・役務を一覧で解説
飲食店にとって商標は、単なる名称の登録ではなく、日々の営業で積み重ねてきた お客様からの信頼や評価を形として守るための器 といえます。
まずは 第43類(飲食物の提供) を中心に据え、そこから自店のビジネスがどこまで広がっているのか、あるいは今後どこまで展開していくのかを踏まえて、第29類・第30類(食品) や 第35類(小売・フランチャイズ関連) を追加していくことが、長期的に見ても賢明な戦略となります。適切な区分選びは、単なる法的な手続きにとどまらず、ブランドの未来を守るための投資 そのものです。
※どの区分を選ぶべきか迷った場合は、現在の事業内容だけでなく、将来の展開予定も含めて整理したうえで、知的財産の専門家である弁理士に相談することをおすすめします。
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